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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)68号 判決

上告人

加藤静子

(外三名)

右四名訴訟代理人

岩瀬丈一

被上告人

宮崎物産株式会社

右代表者

大竹治郎

右訴訟代理人

冨田博

主文

原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人岩瀬丈一の上告理由について。

株式会社の取締役会の定足数は原則として、当該会社に現存する全取締役の員数を基礎としてこれを算定すべく、当該決議について特別の利害関係を有する取締役の員数を控除して算定すべきものではない。原審が確定したところによれば、本件株主総会招集の決議がなされた当時における被上告会社の取締役の総数は四名であつたというのであるから、被上告会社の取締役たる加藤芳蔵が右決議について特別の利害関係を有したと否とにかかわりなく、被上告会社の取締役会の定足数は三名であつたというべきである。

右定足数は、討議、議決の全過程を通じて維持されるべきであつて、開会の始めにみたされていればよいというものではない。けだし、法律は、一定数以上の取締役が会議に出席することを要請し、その協議と意見の交換により取締役の英知が結集されて一定の結論が生み出されることを期待しているものと解せられるからである。原審が確定したところによれば、「被上告会社の代表取締役大竹治郎は、同会社取締役加藤芳蔵が管掌していた西尾営業所の処置に関し取締役会を開くこととし、その旨を全取締役に通知した。昭和三七年九月一一日、全取締役四名のうち前記大竹、加藤及び清水清の三名が出席し予定の議案の審議に入つたが加藤は審議の途中勝手に退場した。そこで、出席取締役大竹、清水は両名一致の意見で、右案件を株主総会にはかるため臨時株主総会を招集する旨の決議をした。」というのである。右事実関係のもとでは、定足数の充足は、開会時において存したにすぎず、総会招集の決議がなされた当時においては存しなかつたというのほかはない。このように定足数を欠く取締役会の決議は無効と解すべきである。

したがつて、被上告会社の取締役会がした前記株主総会招集決議は適法であるとした原判決には、法令の解釈を誤つた違法があるものというべく、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、本訴請求の当否についてさらに審理をなさしめるため、民訴法四〇七条一項に従い、本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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